「東京の下町・谷中で簡易宿所”寿荘”を開業に至るまで ①」寿荘当主 綱島良次 × 株式会社Staymo

 

住宅宿泊事業法の成立を受け、ますます注目集まる「民泊」。その民泊の認知が拡大したことに伴い、訪日外国人旅行者に向けた宿泊ビジネスとして、「ゲストハウス」「ホテル」も急激に増加。古民家をリノベーションして、旅館業の営業許可を取得し、宿泊施設として運営する施設が東京や京都、沖縄を中心に多く見られるようになった。

しかし、ゲストハウス、ホテルとして営業することはそう容易ではない。

旅館業の営業許可を取得するためには、土地・建物・環境面で営業ができる要件を満たしていなければならず、それに該当する物件は限定される。それに加え、宿泊利用者を集客できるかという立地条件も掛け合わせると該当物件はごく一部にとどまり、かつ良い物件の価格は高騰し、許可取得のためには申請費用やリノベーション費用などコスト面の負担も大きい。

そこで今注目を集めるのが「旅館併用型住宅」だ。

“寿荘は、東京の「谷中・根津・千駄木」エリアのちょうど真ん中あたりにある、小さな宿泊処。”

寿荘は、綱島良次氏が当主をつとめる、今年1月に東京都台東区谷中に開業された宿泊処であり、1階が宿泊施設、2階・3階を綱島氏が居住する住宅となっている。

今回は、綱島氏と、寿荘の運営コンサルティングをしている株式会社Staymo(以下、ステイモ)の高橋氏・源氏・真鍋氏にご協力頂き、寿荘開業に至るまでの経緯や苦労したこと、始めてからの稼働状況など様々な話を伺った。

賃料なしで商売ができる「宿泊業」

寿荘を開業するに至った経緯や狙いについて教えて下さい。

寿荘当主 綱島良次氏

寿荘 綱島:
私は元々、指圧マッサージのお店を運営しておりました。テナントを借りて2店舗経営していたのですが、テナントを借りて、賃料を払って商売するのが馬鹿らしく感じるようになりました。賃料がかからない所はどこなのかと考えると家なんですよね。家で何かできることはないかと考えました。

この家は決して人通りが多いわけでもなくて、そうすると何の商売であればお客様が来てくれるのか。そこで思いついたのがホテルと旅館でした。

ホテル・旅館は、お客様が探して来てくれますし、ここは日暮里駅が近いのですが、成田空港から直結していて、外国人が多く、この町も昔と比べて外国人の方がすごく増えてきているので、この家を外個人旅行者を対象としたホテル・旅館にしようと決めました。

最初から宿泊業がやりたくて始めたわけではありません。店舗を借りて経営していて、賃料の負担がすごく大きいので、賃料がかからずにできる商売が何かを考えた結果、寿荘を始めるに至りました。

「寿荘」という屋号については、ここがアパートだったときの屋号を復活させて形です。

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数年、空いた状態の部屋を活用

アパートだったんですね。どれくらいの規模で運営されていたのですか?

寿荘 綱島:
二階建てのアパートだったのですが、私たち家族が1階に住んで、2階がアパートとして4部屋運営していました。四畳半が3部屋、三畳が1部屋とすごく小さいアパートでした。共同のトイレで、お風呂なし。東大が近いので、東大生の入居が多く学生アパートという感じでしたね。少しずつ貸すのをやめて、私たち兄弟が1部屋ずつもらって、4人兄弟なので最終的には全ての部屋に家族が入ってる状態でした(笑)。

それを、私が高校3年生のときに母が建て直しました。将来的には兄貴夫婦が結婚したら住めるように2世帯住宅にしました。1階に母がいて、2階には私たち兄弟の部屋があって、3階は空けていたのですが、結局兄貴夫婦は3階に入らず、姉も家を出て、部屋がスカスカの状態が続いてました。その後、母が亡くなって、3年くらいは放ったらかしにしたままでした。

そして、民泊の存在を知って、もしかしたら宿泊業ができるのかなと考えるようになり、去年開業に向けて動き始めました。工事を始めたのが去年の8月で、今年の1月にオープンしました。去年の4月に法律が変わり、要件が少し緩和されたのですが、緩和後すぐの4月に保健所へ行って、簡易宿所の営業許可を取りたいですと相談しに行きました。いま、台東区が厳しくなってきているみたいで、後から考えるとあの時すぐに動き出したのが良かったなと思います。近所に小学校が2つ、幼稚園と公園が2カ所あって、最初は厳しいかもしれないと言われたのですが、何とかクリアすることができて、それはラッキーだったなと思います。

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自治体が営業許可に対し慎重に

もし今から同じように営業許可取得に動き出しても、今だったら取れないということもあるのですか?

左:株式会社ステイモ 高橋周平氏 右:寿荘当主 綱島氏

寿荘 綱島:
そのような話を聞きますね。台東区は特に、浅草などの観光地があるので営業許可を取りたい方が多くいらっしゃるから、うるさく言わざるを得ないのかなと思います。

ステイモ 高橋:
いま、訪日旅行者が増えて、民泊も注目をあびるようになり、宿泊業にスポットが当たっている状態なので、自治体が以前よりは注意深く確認するようになったり、許可を出すのに慎重になっているように感じます。

寿荘 綱島:
実際に民泊は近隣住民とのトラブルなど、問題になったことが多いのも事実ですから、寿荘を運営する上で絶対に周りに迷惑をかけないようにしないといけないというのは強く意識しています。ある程度、防音なども考えて作っているのですが、戸建てじゃなかったら怖くてできないかなというのはありますね。

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「初めて」「英語話せない」状態からのスタート

- ステイモさんに相談されたきっかけは何ですか?

寿荘 綱島:
私は宿泊業は初めてだったので、どれくらいの料金設定にすべきかというのがわからず、まずは適正価格、相場を知りたいと思っていました。これだけお金をかけて、いくらで売れるものなのかと。そこで、施工業者さんから紹介してもらったのがステイモさんです。宿泊業に関するコンサルティングをやられているということで、お話を聞いてみて、運営のコンサルティングをお願いすることに決めました。

やったことがない商売なので、どんなトラブルがあるか分からないですし、まず第一に英語が堪能ではないので、お客様をちゃんと接客できるだろうかと、とにかく不安だらけだったので一人では絶対できないと思っていました。今になって考えてみても、もしステイモさんにお願いしていなかったら大変なことになっていただろうなと思います。

私だけで始めていたら、今頃はAirbnbに掲載して、1泊15,000円とかで貸して、収支が悲惨なことになっていたのではないかと思います。

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高くても良いものを

- その施工業者さんはどうやって見つけられたのですか?

寿荘 綱島:
普通にインターネットで検索して、8社くらい見つけて、アイデアを出してもらって相見積もりを取りました。8社の中で一番高い金額を提示されたのですが、お金をかけて良いものを作って、自信をもって売っていくというスタイルにしたかったので、そこを選びました。

その施工業者さんは一番熱意を感じました。高いです、でもその代わり良いもの作ります!という感じですね。そのスタイルが僕にはすごく合いました。作ったあとも長く付き合うことになるので、この人と一緒に仕事をしたいと思えるかどうかという点も選んだ理由ですね。

なかには、これでいいでしょ、みたいに雑なアイデアを持ってくる業者さんもいて、もっと良いの無いのかなと感じることもありました。目安の予算は伝えていたので、その予算に合わせたのだと思いますが、選んだ業者さんは伝えた予算の1.5倍くらいで持ってこられてきたのですが、それでも良いと思えるぐらいでした。

高い理由の1つがヒノキ風呂です。外国人の方なので、お風呂はそんなに使わないだろうと思っていて、これは最後まで悩んだのですが、ケチらずにやろうということで作ってもらうことにしました。

囲炉裏は建具屋さんが入ってくれて、壁は国宝がいる会社の左官屋さんがやってくれたり、既製品を置いてしまうと部屋のイメージががらりと変わると言われたのですが、結果的にこれがお客様に非常に満足されています。

ただ、まだまだ完成ではないと思っていて、清潔感は保ちつつ、もっと色付けしていきたいですね。もっと情報発信したりと、進化していかないといけないなと感じています。

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不安は英語とトラブル対応

- 運営を開始するまでに大変だったことは何ですか?

寿荘 綱島:
どうやってサイトに掲載すれば良いのか、妥当な宿泊料はどれくらいなのだろうかという点と、あとはやはりお客様とのトラブルが一番怖かったですね。英語でのやり取り、しかも宿泊業の経験が無い人間が接客するわけですから。サービス業として接客の経験はありますが、宿泊業としてはどうなのだろうか、とにかく不安でしたね。

- ステイモさんは運営のどの部分を担当されているのですか?

寿荘 綱島:
宿泊前段階のメールや電話のやり取りはステイモさんにお願いしています。ここに到着してからの接客は私が担当しています。どうしもお客様の話されていることが分からない時は、真鍋さん(ステイモ)に電話して、代わりに対応して頂くようにしています。月に2、3件くらいですかね。つたない英語ですが、できる限り自分でやろうとしています。

今更ですが、英会話教室にも通い出しました。ちゃんと英語が話せるようになるまで1年、2年のスパンだと思うのですが、きちんとお客様を接客できるようになりたいなと思っています。通い始めて、英語の勉強を苦に感じないですし、話せるようになったら楽しいですよね。英語が話せれば、一緒に食事したり、観光案内もできますよね。適当で良いのであれば、話せる必要はないかもしれないですが、お客様が満足のいく接客をしようと思うと、やはり英語は必須だなと思います。

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「ちゃんと接客したい」というこだわり

- いま、お客様の質問に対して、満足できる回答をどれくらいできているなと感じますか?

寿荘 綱島:
ちゃんと話せていないなと毎回悔しい思いをしています。来る前もすごく緊張して、ちゃんと接客したいっていう想いがすごいあるのですが、それでも出来てないなと感じます。だから全然ですね。

なんとか業務に支障をきたさない程度にはできていますが、緊急時の対応を真鍋さんにお願いできるというのがあるからこそで、これがなかったら大変だと思います。

外国人の方が英語を100%できる接客を求めているかと言うと、そうでもないと思うんですよね。英語を話せるというのは、最低限の意思疎通程度は必要かと思いますが、あまりこだわり過ぎると、この商売に踏み出せないと思うんですよね。ある方は、「英語なんてしゃべれなくて大丈夫だよ、そんなことお客さん求めてないから」という方もいらっしゃいます。その通りだな、と思うところもあるんですよね。英語が話せなくても、カタコトやジェスチャーで何とかなりますし、あとは頑張ってねーとお客さんに手を振っちゃってもいいのかなとは思います。僕はそれをしたくないだけで。

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意思疎通できていないままにしない

- ステイモさんに相談する「緊急時」とは、どんなことが起きたときですか?

ステイモ 真鍋:
最初に比べて数は減ってきています。前に、寿荘に宿泊するお客様ではない、全然関係ないフランス人の方が近辺をさまよっていたみたいで、近所の方が寿荘のお客さんじゃないかといって、ここまで連れてこられたことがありました。

寿荘 綱島:
結果的には、この辺のお客様ではなく、住所を間違えていたようです。普通であれば、そういう時は交番へ連れていくしかないじゃないですか。でも実際に交番へ行ったところで、その住所を探してくれって言われるだけだと思ったので、最終的にはここに泊めることにしました。まだちゃんと掃除できてないとこもあったので、お金は取らないでおきました。お金はいらないから今日はここに泊まっていきなよ、と言って、事なきをえたと言いますか。今、ちょっと反省するのは、身元を確認する、パスポートのコピーはとっておくべきだったかなと思いますね。

あとは、「あれこれちょっと意思疎通できてない、やばい」と思ったときですね。意思疎通できてないままにしておくのはまずいなと思い、そういう時は真鍋さんに電話しますね。

外国人の方でも、中国の方とアメリカの方とイギリスの方と、それぞれ話す英語が若干違うように感じます。意外と欧米の方の英語の方がわかりやすいというか、英語を母国語にしていないフランスとかスペインとかイタリアとか、あっちの方の英語の方が聞き取りやすいですね。

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続き「東京の下町・谷中で簡易宿所”寿荘”を開業に至るまで ②」近日公開予定