「ホテル・民泊におけるビッグデータの有用性」VSbias 代表取締役 留田紫雲氏

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ビッグデータ、AI、ボット、これらの最新テクノロジーを取り入れた企業への注目度は高い。関連スタートアップの大型資金調達、大手企業による巨額買収、新規事業発表による株価高騰など、非常に大きな盛り上がりを見せている。民泊業界においても、ビッグデータを活用し、データ分析・運用支援サービスや運営代行、シンクタンクなどを展開する会社がある。スマートフォンの集客・分析・収益化をワンストップで支援する株式会社メタップスによる買収が昨年8月に発表された、株式会社VSbiasだ。

ビッグデータを民泊でどのように活用し、どんな価値を生み出すことができるのか。誰の何を手助けしてくれるものなのか。株式会社VSbias 代表取締役 留田紫雲氏に話を聞いた。

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Airbnbとの出会いは賃貸物件のマーケティングから

− 留田さんのキャリアについて教えて下さい。

株式会社VSbias 代表取締役 留田紫雲氏

最初はフリーランスでweb関係の仕事をしていました。そのあと、その仕事の関係である業界でもかなり大手の不動産デベロッパーの取締役と知り合いまして、その会社がSUUMOやHOMESなどの集客サイトに頼らずに、自力でWEBマーケティングを行っていきたいと考えているところであり、WEBマーケティング全般のお手伝いすることになりました。それが不動産業界との出会いです。

最初は賃貸物件の客付けをするために、WEBマーケティングで支援しておりました。その後、私の方でその会社さんに提案させて頂いたのが、外国人向けの賃貸です。実は、外国人が日本で物件を借りたいと考えたときに情報収集できるポータルサイトやメディアというのが全然ありません。それなので、そういう外国人向けのサイトを作りましょうと提案させて頂きました。そうすると、「じゃあ、金は出すからやってくれ」となり、コンサルではあるものの、深くまでその会社に入り込んで、ほぼ常駐のような形で事業を立ち上げました。

外国人集客事業を立ち上げて、4ヶ国語でサイト展開して、広告を打って、効果検証して、といろいろ進めていくなかで1つの集客チャネルとしてAirbnbが使えるのではないかとなり、利用を開始しました。

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− 賃貸の客付けとしてAirbnbを?

はい。賃貸なので、最低宿泊日数を1ヶ月以上に設定し、長期滞在のお客様獲得を狙っていました。そこで面白いなと感じたのは、相場の差です。日本人であれば日本人なりの相場観を持っていて、この場所だったらこれくらいの賃料を出しても良いかなと分かるものだと思います。しかし、外国人の場合は相場観がないので、日本人であれば10万円程度の賃料が、19万円や20万円で借りたいという方が出てきます。それを見て、この事業がすごく良いのではないかと考えました。集客効果と単価アップの両方で貢献できたのかなと思います。

もう少し色々なことに手を伸ばしていきたいと思うようになりました。集客だけをミッションにするよりも、もっと根本的な部分から空室を改善して、価値がないと思われているものから新しい価値を生み出すようなことをしたいと考えたのがきっかけとなり、法人化することになりました。

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賃貸に変わる新しい空間活用の方法を生み出したい

− 「VSbias」にはどのような意味があるのですか?

すごくよく聞かれます(笑)割と文字通りなのですが、当時はスティーブ・ジョブズが大好きで、「stay hungry」ではないですが、そういった挑戦する意思がこめられたメッセージがすごく好きで、世の中の偏見を壊していこうという意味でVSbiasという社名にしました。そのままなんですが(笑)

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− ミッションの「空間価値を最大化させる」について

誰にとっての価値を最大化させるのかというと、ここではエンドユーザーにとっての価値を指しています。飲食店だったら、そこに食べに来るお客様ですし、ホテルであれば、そこに泊まりに来る宿泊者。住宅であれば、そこに住む住民。こういったエンドユーザーにとっての価値をどれだけ上げられるかにこだわるように心掛けています。

不動産業界ではサプライヤーとエンドユーザーの距離が離れているので、意識しづらいというのもあると思います。あとは、不動産業界に入ったときに若い人が少ないなと感じました。40代以上の方が多いので、20代のエンドユーザーの気持ちを理解するというのは非常に難しいのかなと感じています。ユーザーの気持ちがわからなければ、そのユーザーにとって良いものを作ることはさらに難しいのかなと思います。

マクロで見ると、今の不動産は賃貸経営が多いと思うのですが、人口が減っていくなかで賃貸需要はどんどん下がっていきます。そうなると、新しい方法を見つけて空間を利用していかないと、価値が無くなっていくと思います。そうしたマクロで見た領域でも何か挑戦していきたいという意思を含めて、「空間価値を最大化させる」というミッションを掲げています。

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− 具体的に何か取り組まれていることはありますか?

武器としてはテクノロジーやデータを活用したソリューションです。空間という今まではアナログでしか認知されていなかったものをデータ化して、そこを分析して解決策・最善策に繋げていきます。具体的に言いますと、baberuというサービスで宿泊施設の運営者に向けたシステムを提供しているのですが、まずはその利用者を増やしていき、そこの情報を蓄積、解析していきます。

baberuが既存のシステムと違う点は、無人運営を想定した運営プラットフォームを作ろうとしている点です。これまで、宿泊施設ではフロントやドアマンなど、運営スタッフがいることが当たり前でしたが、ガソリンスタンドが今や無人となったように、宿泊施設もいずれ無人で運営するところが増えてくると考えています。また、baberuはデータの質にこだわっており、例えば、国籍、年齢、性別などのデモグラフィック情報と、その人がどれくらいホテルに滞在していたのか、どれくらい電力を使ったのか、どこで購買したか、どんなツアーを予約していたかなど、行動に関するデータもすべて取得するための基幹システムです。

システム自体はあくまで運営者の手助けをするものなのですが、本質的なところで考えていることは、今まで取得できなかったデータをまとめて、どういう風に活用していけるかというのを考えています。例えば、Facebookのオンラインターゲティング広告は非常に精度が高くなってきているのですが、それをリアルでできないかなど、そうしたことに挑戦していきたいと思います。

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− リアルで、というのはどんなイメージですか?

例えば、今までは訪日観光客向けというと、訪日観光客が集まるような場所に目立つように広告を出すしかできなかったと思います。これがターゲティング広告となると、中国人が泊まるときだけ、20代のアメリカ人が泊まるときだけ、とセグメントに合わせて広告を出し分けすることができるようになります。同じ中国人のお客様であっても、この人は日本に何回も来ているから、こういう提案の方が良いのではないか、 というようなツアーを提案することも可能です。

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民泊に不足するイールドマネジメント

− ホテルはどのような課題を抱えているのですか?

色々あるのですが、1つは人件費です。だいたいコストを圧迫しているのは人件費です。だからといって、人を減らすと利用者からのクレームが増えてしまうことがあるので、そのジレンマが強いですね。

その他ですと、ホテルの規模によって異なりますが、大きいホテルの場合は、イールドマネージャーを専任で1名設けていたりします。イールドマネージャーが何をするのかと言うと、近隣の競合ホテルや時期、相場を踏まえて宿泊料金の価格設定を行うのですが、中規模のホテルの場合、なかなかそういう人を専任で雇えず、属人的な勘や経験など、アナログで設定しているところは意外と多いです。しかし、人工知能を使えば、価格調整は出来るようになると思います。

日本は、チェーンホテルが海外に比べて少なく、中小規模のホテルが多いので、同じように課題意識を持っているところは多いのではないかと思います。今後は、その辺りがキーになってくると考えています。

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− 価格調整を決める際に重要なポイントとは?

やはり一番は近隣宿泊施設の稼働率だと思います。そこが一番わかりやすいです。周辺で稼働率が高いのであれば、在庫(予約可能な施設の空き)が少ない状態ですので、値段をあげることができます。時期による需要の変動については、1年前も2年前もそこまで大きく変わらないので、過去を分析すれば、ある程度は傾向を把握することができます。しかし民泊市場では、現状それすら全く反映されてないので、そういったところは全然改善できると思います。

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データによる根拠で曖昧さを無くし、確実性を高める

− 御社の強みである「データ」の具体的な活用方法とは?

1つ事例をあげますと、弊社にご相談に来られるお客様のなかにはファンド経営者の方が複数いらっしゃいます。例えば金融資産が10億円あっても、不動産に投資をしたいのだが、なかなか決められない。それはなぜかと言うと、不動産会社が出す情報はすごく定性的で、この場所は良いと言われても何が良いのか具体的な根拠が分からない、と言う方が多くいらっしゃいます。

それに対し弊社は、大量のデータを元にロジックを立てて詳細なレポートを提出しています。それを見て、「こういう会社を探していたんです!」とおっしゃって頂けたことがあります。

他には、既に物件をいくつか賃貸で運営しているものの、それだけではポートフォリオが一部に固まってしまうということで、宿泊事業を望まれる方からのご相談が多いです。そういう方々は、宿泊事業は経験がない上にデータがないから判断ができないので、検討している物件が宿泊事業に向いているのか分からないという悩みを持たれています。そこで、弊社がパートナーとなり、一緒に物件の活用法を考えたり、物件を探したりします。他の会社さんではあまりやられていない取り組みなのではないでしょうか。

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− 他にもデータが活かせるところはありますか?

データの活用方法として、人気が出る物件を分析できるという要素がありますが、トラブルを未然に防ぐことができるという要素もあります。例えば、Airbnbでのメッセージやレビューを分析すると、どういうトラブルが多いのか、何がレビュー評価を下げる要因なのかが分かります。騒音とゴミ出しに関するクレームが多いのですが、戸建て物件など、建物タイプによって防音設備を入れた方が良いですよといったアドバイスや、ゴミ出しのルールがどうなのかなどを物件選びの際に確認するようにしています。

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− 顧客は、ファンド経営者が多いのですか?

いえ、ファンド経営者は特殊な例です。どちらかというと、マンションやアパートを一棟所有しているとか、戸建てを持っているとか、そういう個人オーナーさんが多いですね。

ゼロからお部屋を立ちあげる方が弊社サービスとの相性は強いと思います。立地選定や物件選び、インテリアやリフォームなどの部屋作りからお手伝いさせて頂けると、弊社の強みであるデータをフル活用することができます。弊社には、リフォーム専門のスタッフもいるので、データを踏まえた宿泊専用のお部屋作りをすることが可能です。普通の部屋を作るよりも、30万円コストが高くなったとしても、例えば1ヶ月の売上が5万円上がれば、6ヶ月で回収できてしまいます。そういう意味で、初期コストは下げれば良いというわけではなく、特に民泊などの宿泊事業においては強く売上に影響する部分なので、企画段階からしっかりサポートさせて頂いています。

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3,000件の全ての運用情報を把握

− 御社の「ビッグデータ」と他社のそれとの違いは?

「baberu」収益確認ページ

あまり全てをお話しすることはできないのですが、やはり「baberu」という運営ツールを提供しているので、運用に関するデータ量はおそらく日本でもかなり稀なほど大量に保有していることです。データは大きく分けると2つあります。

1つはAirbnbなどの予約サイトをクローラーで取得したデータ、もう1つは実データと言いますか、運営上の生のデータです。弊社が取得しているのは後者の方です。

baberuを利用している運営者が、売上が高いリスティングがどのように運営されているのか、メッセージの返答率・返答時間はどれくらいか、レビューにはどんな内容が書かれているのか、高評価レビューに頻出する単語はなにかなど、データを活用すれば売上をあげるための要素を把握することが可能です。

物件数で言いますと、約3,000件のお部屋のデータを取ることができています。

クローラー情報とは異なりデータは精密です。クローラー情報ですと稼働率ですらずれてしまいます。クロール対象サイトがAirbnbだけであれば、大きなずれはないかもしれませんが、今は多チャネル運営が主流ですので、そうすると1サイトだけにクローラーを回したところで取れる情報は少なく、結果として質にも大きな差がうまれます。

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− データから見る最近のトレンドは?

宿泊単価の下落傾向が続いていたのですが、最近は落ち着いてきました。運営代行会社さんのなかでもBooking.comに掲載しているところは売上が上がっているところが多いです。今まではAirbnb一強という感じでしたが、それが段々崩れてきたのかなと感じます。

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セルフチェックインによるビジネスモデルの変化

− 民泊市場をどのように見られていますか?

今ちょうど思っているのは、ビジネスモデルの転換期だということです。

民泊そのものというよりは、不動産、宿泊と見た時に、賃貸の利回りが5%~8%っていう時代に、10%出るような物件が出たりします。これはすごいことだと思っていまして、今までのルールブックには載っていなかったものが出てきたという面白さがあると感じています。例えば、民泊は不動産投資における銀行の評価システムが通用せず、ルール外のものが入ってきたことによって、ビジネスモデルが大きく変わろうとしています。

民泊で何が一番面白いかと言えば、セルフチェックインだと思います。ホテルにしても何にしても、セルフチェックインは、今までにありませんでした。それが技術によって解消されようとしています。ホテルですと一般的には人件費率が30%~40%なので、 それが半分になるだけで、ビジネスが大きく変わります。原価が半分になるのは、非常に面白い転換期だと思います。

時代的にも文化的にも受けられるようになっています。法律的にも特区や民泊新法などで、セルフチェックインを受け入れようとする風向きになってきています。これらの条件が揃うと、ビジネスモデルが変わる面白いタイミングだなと捉えています。

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取材を通して

ビッグデータと聞けば、ただ何となく良質な何かを提供してくれるのではないかと思ってしまう方は意外と多いのではないだろうか。今回、留田氏への取材を通して、データには2つの重要な点があると感じた。1つは、どんなデータを取得しているかということ。どれだけ細かく大量のデータを保有していたとしても、解決策を導き出すために必要な情報でなければ意味はない。同社では、予約サイトから収集した表面上の情報ではなく、運営者当人にしか取得できない情報を収集することができているため、非常に良質な運営ノウハウを蓄積することに成功している。そして2つ目は、データの総量。データの質が良い場合は、総量が多ければ多いほど情報の確実性が増す。この点においては、運用支援システムを3,000部屋に提供している同社は他社を圧倒する素晴らしい強みと言える。

これから民泊を始めたい、所有しているマンションを宿泊事業に利用した際の収益性について相談したい、そんな方は一度同社へ相談してみてはいかがだろうか。